溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
今は前より強い薬を使っていて、ひどいときは点滴で痛み止めを打ったりしている。ときどき、体調を見て外出をしたりしているが、もう自力で歩くことはできず、移動は車椅子だ。
延命治療はしないと決めたから、じいちゃんらしい最期を迎えられるように、苦痛を取り除く治療をしている。
「沙奈も、今日は病院だったんだっぺ? どうだった?」
「うん、順調だって」
だいぶ大きくなったお腹をなでて、よいしょと椅子に座る。
私の妊娠が発覚したのは、結婚して一ヶ月が過ぎた頃だった。
あまりに早く妊娠が判明したことに驚く私に対し、東吾はいたって冷静だった。まるで、そうなることがわかっていたかのように。
その頃、私は結婚したことで部署が異動になることを心配していた。希望していた企画の仕事を離れるのは嫌だったが、異動になるなら間違いなく私だ。
実際に、人事部に呼び出されて異動の話をされ仕方がないことだと思いながらも少し落ち込んでいた。
そんな私に、彼は「異動の話はうやむやになるから、大丈夫。多分、働けなくなるしね」と笑ったのだ。
笑いごとではない、なにが大丈夫なのかと怒っていたのだが、本当にそうなって今度は恐ろしくなった。