溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「レストラン事業を拡大できたら、立地に合わせた限定メニューを出すのも売りになりそうだな。うん、企画書はこれでOK。じゃ、こっちの打ち合わせを始めよう」
「は、はい。よろしくお願いします」
「まずは、言葉使いからだね。恋人なんだから、敬語は使わなくていいよ。あと名前で呼ぼうか。俺も沙奈って呼ぶから」
「え、ええ? 名前ですか?」
「ほら、敬語。俺もプライベートでまで主任て呼ばれたくないからさ。俺の名前、まさか知ってるよね?」
「し、知ってますよ」
「じゃあ、呼んでみて」
眼鏡を外した主任にニコッと微笑まれて、心臓が掴まれたみたいにぎゅっとなる。この人、もしかしてわざとやっているのかな。
会社じゃ、絶対に笑わないからなのか、笑顔の威力が凄まじい。
「あ、そういえば主任。課長と部長にじいちゃんのこと話してくださったんですね」
主任を名前で呼ぶことが恥ずかしすぎて、少しでも先延ばしに……あわよくばごまかそうとさりげなく話題を変える。
「ああ、話しておいたよ。二人とも、沙奈のこと心配してただろう?」
「あ、はい。仕事も大変だろうけど、できる限りの協力はするから無理をしないようにと。大変優しいお言葉をかけていただきました」
そして課長には「桐島くんは頼れるから」と、部長には「桐島くんがついているなら安心だな」と、なぜか生温い目を向けられた。