溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
あれは事情を知っている主任が同じプロジェクトチームにいるから安心だな、ということよね。
「それはそうと、名前。早く俺の名前を呼んで、沙奈」
ああ、そうですよね。ごまかせる訳がないですよね。小さく息を吐いてから、私は仕方なく主任の名前を口にした。
「と、とう……東吾、さん?」
『桐島東吾』なんて、なんか四角くて堅そうな名前だと密かに思っていた。
でも、どうしてだろう。いざ呼んでみたら、とても素敵な名前に思えてくる。
「さんは、いらないな。俺たち同い年なんだし」
「そ、そうですけど。でも、上司ですし」
「ほら、敬語。会社では上司でも、プライベートな時間は沙奈の恋人なんだから。ちゃんと名前を呼んで」
「……東吾」
観念して名前を呼ぶと、よくできましたとばかりに頭を撫でられてチュッとふいうちでキスをされる。
「ちょっ、急にするのはやめてください」
「え? 予告してほしいの? それともしていいか同意を取ったほうがいい?」
真っ赤になっている顔を覗き込まれて、うっと言葉に詰まる。
キスするよって予告されるのも、キスしていいか同意をとられるのも、微妙……かもしれない。
チラッとその顔を見ると、えらく楽しそうに笑っていてついついムッとしてしまう。顔をしかめる私に、主任は声をあげて笑い出した。