溺愛御曹司は仮りそめ婚約者

「すごい、鳩が豆鉄砲をくらった顔ってこういうことを言うんだろうね。本当、素直でかわいい。沙奈は俺のことを感情のないサイボーグみたいに思ってたのかもしれないけど、面白ければ普通に笑うから」

「そんなこと思ってな……お、思って……た？ いや、そんなことは！」

バカ正直に失礼なことを口にしてしまって、慌ててごまかそうとする。そんな私を見て、彼は気を悪くした様子もなくクスリと笑った。

人間味の薄い、不気味な人。サイボーグとまではいかなくても、そう思っていたのはたしかに事実だ。

だけど、実際のこの人はそんなことはない。こんな無茶な契約をしてくれるくらいだし、なかなか情にも厚いと思う。

「いいよ、別に。そう言われるのは慣れてるし。実際、会社では無駄な感情を出さないようにしてるから」

“慣れている”という言葉に、ズキリと胸が痛んだ。サイボーグなんて、決して褒め言葉ではないのに。

会社で私が見ていたあの姿は、意識してのものだったのか。

きっと、常に『社長の息子』という目で見られているから、気も抜けないんだろう。

完璧すぎる彼に、嫉妬している先輩社員もいる。彼らの心ない言葉は、主任の耳にも入っている。

それを“慣れている”と、言ってしまえるくらい。