溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
でも、余命半年……それが変えようもない事実なら、じいちゃんに少しの心残りも残してほしくはない。
今思えば、予想もしていなかった事態に冷静な思考ではなかったのかもしれない。いや、なかったのだろう。
じいちゃんを安心させたいあまり、私はとんでもないことを口走ってしまっていた。
「実は、結婚前提に付き合ってる人がいるの」
残念ながら、そんな人は存在しない。嘘もいいところ、大嘘だ。今思ってもなんでそんな嘘をついてしまったのかわからない。
『嘘をついたら、泥棒の始まりだっぺ。そんな悪い子は、家に入れらんね』と、幼い頃から言い聞かせられていた私は、家を失ったら大変だとその教えを忠実に守ってきた。
自慢じゃないが、一度も嘘などついたことはない。至極真っ当に、真っ直ぐに生きてきた。
なのに、嘘をついてしまった。しかも、今度の土日にその人を連れて家に帰るとまで約束してしまった。
もう一度言おう。私には結婚を約束している人はおろか、恋人と呼べる存在もいない。連れて帰れる人などいないのだ。
そのことだけでも頭がいっぱいなのに、今、私は仕事でも大きなプロジェクトに関わっている。
女性の社会進出が進み、不況により共働きも当たり前なこの時代で、冷凍食品の需要は年々高まっている。
最近では冷凍食品を使ったレストランも登場し、桐島フーズも四ヶ月後に自社商品を使ったレストランを新規事業としてオープン予定だ。
そのプロジェクトチームに、私も選ばれていて、現在主力となるメニュー開発が進められている。