溺愛御曹司は仮りそめ婚約者

「なるほど。だから、うちで治療食をやりたかったんだね」

そうなのだ。実は、私が企画に配属されるまで、桐島食品では塩分やカロリーを制限した治療食も、食材を飲み込みやすく柔らかくした介護食も取り扱っていなかった。

いくつかの家庭向けの一般商品の企画を経験してから、私は治療食への介入を企画、提案した。

最初は、新規事業。それも需要の少ない治療食への介入に難色を示されていたが、なんとか企画が通り、それが実現したのが一年前。

インターネット販売が主な治療食という分野で、桐島フーズは気軽に手に入れられるよう、グループ傘下のスーパーで店頭販売もしている。

それがよかったのか、なかなか売上もよく、昨年シェア率が一位になってチームで大喜びした。

そういえば、かなり難色を示されていたその企画が通ったのは、この人が主任になってすぐのことだった。

「もしかして、私の企画が通ったのって、東吾のおかげ?」

「んー、まあ……ちょっと口を出しただけだよ。純粋にうちに必要だと思ったから。沙奈をレストラン事業に推したのも、メニューに治療食をいれたかったから」

「どうして?」

「子供の頃ってさ、レストランに行くのって特別なことじゃなかった? 大人になったらなったで、家族揃って行くのなんて、やっぱり特別な時が多いだろ? だけど病気の家族がいたら……なかなかそれもできないよね。今度作るレストランは、どんな人でも平等に特別なひと時を過ごせる場所にしたい」

私がプロジェクトチームに選ばれたのって、そういう狙いがあったのか。それに、主任の考えには私も賛同できる。

食事制限をしていると、なかなか外食が難しいことは、私も良く知っている。そういう人が安心して食事を楽しめる場所を作りたい。


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