溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
二度目の契約
遠くから、優雅な音楽が聞こえる。聞き慣れたこの音は、あれだ。私の携帯のアラームの音だ。
布団から手を伸ばして、携帯を手にとってアラームを切る。
ふわあっと欠伸をして背伸びをした私は、何かが腰に巻きついていることに気がついて動きを止めた。
そういえば、いつもよりもベッドの寝心地がとてもいい気がする。それに、背中がすごくあったかい。
そこで私は、やっと自分がどこにいるのかを思い出した。後ろを振り返れば、この部屋の主人が私に抱きついて穏やかな寝息をたてて眠っている。
うわ、無防備。男の人にこんなことを思うのは失礼かもしれないけど、寝顔、ちょっとかわいいかも。
つい、その頭を撫でそうになってハッとする。
いけない、そんなことをする権利は私にはない。
この人は、あくまで偽の恋人なんだから。ちゃんとそこのところをわきまえておかなくては。
大丈夫。昨日何個か鍵は吹き飛んじゃったけど、あと百個、いや……二百個はある。しかし、それでも心許ない。
それくらいこの人は、桐島東吾という人は危険だ。いっそ、感情が読めない不気味な上司のままでいてくれれば良かったのに。
あんなふうに御曹司の苦悩や孤独を語られたら、気になって親身にならざるを得ないではないか。
お節介かもしれないが、これは十中八九、浅田家の血だろう。私はうれしくないことに顔は母親似らしいが、中身はがっつり父親似だ。