溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
まあ、これがボンクラ御曹司だったら私も甘えるなと、ちゃぶ台返しをしているところだ。だが彼は、その重圧と向き合い戦っている。
近くで……いや、近くもなかった。中距離を保ちながらその努力を見てきた身としては、力になりたいと思うのは当然だろう。
危険なのは、私の言葉に素直に喜ぶこの人の魅力的な笑顔だ。あれは危険だ、凶器だ。
見慣れるどころか、見るたびにその威力を増している気がする。それに契約の報酬とはいえ、キスも良くない。
一回始まるとびっくりするくらい長いキスは、甘くてドロドロに溶けてしまいそうになる。
この人に異性としての魅力なんて微塵も感じていなかったはずなのに、等身大のこの人に惹かれている自分がいる。
「これはいかんな……。とにかく、これは契約。勘違いしない! 」
ペチペチと頰を叩いて、私に引っついたまま全然起きる気配のない主任を起こそうと声をかけた。
「しゅに……。東吾、起きて。おーい、起きて」
反応なし。声が小さかったかともう少し大きな声で呼びかけてみても、まったく反応がない。
起き上がろうとすると、ぐっと腕に力を込められてそれはできなかった。起きたのかと思って振り返っても、その目は閉じられたまま。
静かな寝息も聞こえてくるから、起きてはいないみたいだ。
「東吾、起きて。朝だよ、起きてー」
もう一度呼びかけても、全然起きる気配はない。むしろますますきつく抱きしめられて、おまけにうなじに顔を埋められてしまう。
吐息がくすぐったくて、ビクンと身体が跳ねる。