溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「ひゃう! くすぐった……お、起きて! お願いします! 起きてください!」
「ん……あと五分」
必死の呼びかけに、やっと返答らしいものが返ってきたことにホッとしつつも、普段より低い少し掠れたその声に耳の奥がゾワゾワする。
それにまた、吐息がうなじにかかってくすぐったい。
「ご、五分経った! 経ちました! さ、起きましょう」
大嘘だ。多分、一分くらいしか経ってない。でも、これ以上は私のメンタルが保たない。
「……もうちょっとだけ」
うぎゃー! 更に擦り寄ってきた。こ、この人わざとやってるわけじゃないよね?
……もしかして桐島主任て、ものすごく寝起きが悪い?
無理やり主任を引き離して起き上がると、腕が何かを探すような素振りを見せたあとに、パタリとシーツの上に落ちた。
そして、すうすうと気持ちの良さそうな寝息が聞こえてくる。
間違いない。この人、寝起き最悪だ。だって、枕元に目覚まし時計が五つも置いてある。
なんかちょっと意外だ。完璧な主任にこんな一面があるなんて。
あまりにも気持ち良さそうな寝顔を見ていたら、なんだか起こすのが可哀想になってきた。
とりあえず着替えて、朝ごはんの準備をしてから起こそう。
そう決めて、寝室を出て洗面所に入った。昨日は気付かなかったけど、ここにも目覚まし時計が置いてある。