溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「ダメ。もう五分どころか、三十分経ったし」
「もうちょっと」
えーい、駄々っ子か! せっかく朝ご飯もできたてで熱々なのに。痺れを切らした私は、ついに主任のかぶっている布団を剥ぎ取るという力技に出た。
「もう! いい加減に起きて!」
「うわ、さむっ。うぅ、分かった。起きる、起きるから……キスして」
「はあ!?」
「キスしてくれたら、起きる」
な、なんだこの人は、甘えん坊さんか! キスで起こすって、どんだけバカップル。ていうか、どんな羞恥プレイ。
だけど、起きてもらえないのは困る。時間もあれだし、私はご飯が食べたい。
仕方なくいまだに目を閉じたままの主任に顔を寄せて、チュッとキスをすると目を開いた主任の瞳が弧を描いた。
びっくりして離れようとした私の背中に、長い腕が巻きつく。
バランスを崩して主任の上に倒れ込んだ私の身体を抱きしめて、今度はちゃんと彼からチュッとキスをされた。
「おはよ、沙奈」
「お、おはよう。ていうか、起きてたの?」
「いや、布団剥ぎ取られたところで起きた。ごめんね、俺、寝起き悪いんだ」
私の身体を離して起き上がった主任が、まだ眠そうに目を擦る。寝癖がついている姿が、なんだかかわいい。
い、いかん。普段とのギャップがありすぎて萌える。思いがけないギャップを見せられて恋に落ちる気持ちがよく分かった。
落差があればあるほど、効果的だ。これはまずい。