溺愛御曹司は仮りそめ婚約者

「と、とりあえず顔洗ってきて」

「ん。朝ご飯、作ってくれたんだ。いい匂いがする」

「うん。だから、早く顔洗ってきて」

「分かった。……沙奈って、普段はそんな感じなんだ。やっぱり仕事中よりずっとかわいい。先に食べてて」

寝ぼけ眼でチュッと頰にキスをして、フラフラしながら洗面所に向かう後ろ姿を見送る。

なんだ、あれ。かわいいって、こっちのセリフだよ。ものすごくキュンキュンするんですけど。あんなの反則だ。

……食べよう。先に食べていいって言ってたし。お言葉に甘えて、先に食べることにしよう。

箸を持って、いただきますと手を合わせてからみそ汁を一口飲む。

「んー、おいしい」

自分が作った料理に頰を緩ませていると、洗面所からゴンッという音がした。

嫌な予感がして、ご飯を中断して洗面所の扉を開けると、主任は壁に寄りかかって目を閉じていた。

これ、寝てる? 寝てるな。頭が船漕いでるわ。立ったまま寝てる人、初めて見たんですけど。

「ちょっと、東吾! 寝ちゃダメ! 目開いて!」

「んー?」

「ぎゃあっ! お、重い! 寄りかからないで!」

ちょっと、この人……私生活では案外ダメダメなんじゃないの!? ものすごく手がかかるんですけど。

ああ、さようなら。私のできたて朝ご飯……。

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