溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「ごめんね、世話かけて」
バタバタしながらもなんとか予定通りの時間に家を出て、車に乗ってシートベルトをしたところで、主任がそう言った。
思わずその顔を見ると、バツが悪そうにハンドルに頭を乗せている。
「大丈夫だよ。職場では完璧な桐島主任の意外な一面が見れて面白かった」
まあ、たしかに大変だったけれども。食べながら寝るとか子どもかよ、と思いましたよ。
でも、私の作ったご飯をおいしいって褒めてくれたから。それでまあ、良しとしよう。
「昔から朝はダメなんだ。呆れた?」
「呆れてないから、大丈夫。いつもどうやって起きてるの?」
「携帯のアラームと目覚ましを五個かけて、リビングまで距離をあけて置いて起きてる。あんな感じで洗面所でも寝ちゃうから、そこにも目覚ましかけてる」
ああ、洗面所の目覚ましは、そういう役割だったのか。あの姿を目の当たりにするとそれも納得だ。
「今日は、沙奈がいるからもうちょっとしっかり起きれると思ったら……逆だったな」
「へ?」
「沙奈に世話を焼かれるのがうれしくて、甘えきってた。よかった、呆れられてなくて」
本当に安心したように笑う主任に、ドキッとした。ちょうど彼は車のギアをドライブにいれていて、赤い顔を見られずにすんだことにホッとする。