溺愛御曹司は仮りそめ婚約者

どうにかして逃げなければと思った私の肩に、大きな手が触れた。
そのまま、やや強引に振り向かされて、正面からまともに目が合ってしまう。私を見つめる、その顔は、驚くほどに険しい。

私の同期であり、上司でもあるこの人……桐島東吾(きりしま とうご)は、私の所属する企画部の主任で、レストラン事業のプロジェクト全体のリーダーを務めている。

桐島フーズの社長の息子でもある彼は、いずれこの会社のトップに立つ人間だ。

彼は、入社してすぐに企画部に配属され、現在我が社の主力となっている商品のほとんどの企画に携わり、瞬く間にヒットさせた。

そして、「親の七光り」と陰口を叩いていた先輩社員たちを黙らせてしまったのだ。

そして、私が企画部に配属されて一年後、実務経験わずか三年で主任に昇格した。もちろん、親の七光りなどではなく実力で彼はその地位を得た。

一流大学卒、社長の息子。それを差し引いても桐島東吾という人は、充分すぎるほどに優秀だ。

さらに形のいい男らしい眉に、ややつり目がちな切れ長の瞳。彫りの深い顔立ちは男らしくて非常に魅力的。染めていない短すぎない髪は、いつも綺麗にセットされていて乱れることはない。

背も高くて、素晴らしく優秀で、次期社長。さらに顔までよしときたら、当然のようにモテる。彼を狙っている女子社員はごまんといるが、今のところ浮いた噂を聞いたことはない。

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