溺愛御曹司は仮りそめ婚約者

もう、後戻りはできない。だから私は、この嘘を突き通す。大好きなじいちゃんのために……。

一緒に過ごせる時間は、きっともう多くはない。

「沙奈、見ろこれ。茶柱立ったぞ。今日は、いい日だなぁ」

コタツに入って、ニコニコとうれしそうに笑っているじいちゃんを見て涙が出そうになった。

だけどそれを必死にこらえて、じいちゃんに向かって微笑む。

「本当だね、じいちゃん。なんだかすごくうれしそうだね」

「だって、沙奈が彼氏連れてきたのなんて初めてだっぺよ。こんなうれしいことはねぇべ。ところで、沙奈の働いてる会社……桐島フーズだよな。東吾くんて……」

「ああ、そうです。父は、桐島フーズの社長です。僕は、今は沙奈さんと同じ企画本部で主任をやらせてもらっています。沙奈さんには以前から好意を持ってはいたのですが、なかなか距離を縮める機会がなくて。今回、大きなプロジェクトで同じチームになって、僕から結婚を前提としたお付き合いを申し込んだんです」

にこやかに微笑んだ主任が、スラスラとここに来るまでの道中に決めた設定を口にする。

私たちの恋人設定はこうだ。交際期間は三ヶ月。アプローチは主任からで、実はもっと前から彼は私に好意を持っていて、仕事を通じて急接近。お付き合いに発展した。

御曹司に見初められるという、絵に描いたようにベタなシンデレラストーリー。

それに対するじいちゃんの反応は、とても素直で、とても露骨だった。

「な、さ、さ、沙奈! た、た、玉の輿! 玉の輿だっぺ!」

「ちょ、じいちゃん! 私は東吾さんが社長の息子だから好きになったわけじゃないよ。東吾さんだから、好きになったの。すごいんだから、東吾さんは。じいちゃんが好きな唐揚げも東吾さんが企画したんだよ」

興奮しているじいちゃんに、強く主張する。これは設定にはなかったけど、玉の輿目的でというのはちょっといただけない。

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