溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
私は社長の息子としての桐島東吾よりも、実力で周囲を黙らせ、主任という地位についた彼に惹かれる。
彼の部屋の本棚には、仕事関係の本がびっしりと詰まっていた。
きっと彼は、影でとてつもない努力を重ねてきたのだろう。親の七光りと言われないように、誰にも弱音を吐かず、一切の感情を隠して。
困ったことに、そういう努力家なところに私は魅力を感じてしまっているのだ。
「東吾さん、すごく努力家なんだよ。ちょっと不器用で言葉足らずなところはあるけど、そんな人だから支えたいと思ったの。それに、意外とかわいいところもあるから」
これも、本当。寝起きが最悪という欠点さえもかわいらしく見えるのは、普段の彼があまりにも隙がないからだろう。
ただし、支えるのはあくまで友達として、部下として。自分の立場を見失わないようにしなければ。
ふと主任を見ると、口元に手を当てて私から目を逸らした。心なしか……顔も赤い?
「そうなのか。あれ、大好きなんだ。すごいなぁ、あれを東吾くんが作ったのか」
「そう言ってもらえると、いち企画人としてとてもうれしいです。あれを企画したのはたしかに僕ですが、それがヒットしたのは開発部と製造部、営業部の力あってこそです。僕だけの力じゃありません」
この人は、そんな謙虚なことを思っていたのか。本当に不器用というかなんというか。
こういうところ、もっと会社でも出せばいいのに。損な性格をしている。
「いやぁ、東吾くんは謙虚な人なんだなぁ。それに、沙奈のことをすごく大切に思ってくれてる」
じいちゃんの言葉に、主任と私は同時に驚いて目を見開いた。ズズッとお茶を飲んだじいちゃんが、いたずらっ子のように目を輝かせて私と彼を見つめている。