溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「焼き芋? へえ、したことないや。それは楽しみですね」
おお、よかった。田舎のおもてなし、意外と喜んでくれてるみたい。にしても、焼き芋したことないのか。なんていうか……。
「さすが都会人」
「……ちょっとバカにしてる?」
あら、ちょっとムッとしてる。主任のそんな反応が新鮮で、目を丸くするとぷっと主任が吹き出した。
「また鳩が豆鉄砲を食ったような顔してる。かわいい」
楽しそうな笑顔に、心臓の音が速くなる。今、絶対に顔が赤い。くそぅ、じいちゃんが変なこと言うからだ。
私のことを大切に思ってる、なんて言うから……。変に意識してしまう。
そんな余計なことを言った当の本人は、なんだか満足そうにひとりでうなずいている。
「いやぁ、仲が良くて微笑ましいなぁ。よし、じゃあ焼き芋すっぺ。沙奈は、渡辺さん家にお礼言ってこぅ。沙奈が結婚相手連れてくるって言ったら、喜んでとっておきのいい芋くれたから」
……今なんて? 結婚相手って言った? いや、たしかに結婚を前提としたお付き合い、とは言いましたよ。
でも、恋人と結婚相手じゃだいぶニュアンスが違う。
「え!? ちょっと、じいちゃん、そんなこと言ったの?」
なんてこった。田舎のネットワークの速さを舐めちゃいけない。そうしたらもう、町内中に広まってるじゃない。
「わ、わかった。お礼言ってくるから、東吾はじいちゃんと待ってて」
非常にまずい事態になった。なんとかごまかさなくては。
まだお付き合いを始めたばかりで、じいちゃんが先走りすぎただけで結婚のことは未定だって言おう。そうしよう。
そう決意して立ち上がろうとした私の腕を、主任が掴んだ。