溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「僕も一緒に行くよ。挨拶しておいた方がいいと思うし。普段おじいちゃんはひとりなんだから、ご近所さんとのお付き合いは大切だよね。お世話になることもあるだろうし」
「え!? いや、あの……」
顔を引きつらせる私に、主任がにっこりと微笑む。その笑顔がとても恐ろしく見えるのは、どうしてなのだろうか。
そうしているあいだにも主任はさっさとコートを着て、私のコートを手に持ち立ち上がる。
「さあ、早く行こう。おじいちゃんを待たせるのも悪いし、焼き芋も楽しみだからね」
「おお。準備しとくから、はよ行ってこぅ。いやぁ、こんな男前な婿さんで……じいちゃん鼻高々だなぁ」
いやいや、婿さんてなによ。じいちゃん、浮かれすぎでしょ。ちょっと設定が違うから。事の進みがなんだかおかしい。
なんで主任もそんなにノリがいいのよ。私、やっぱりどこかでなにかを間違ったかもしれない。
「行くよ、沙奈」
にこやかに微笑みながらコートを着させてくれる主任に、仕方なく従う。外に出て、じいちゃんの目がなくなったところで、私は主任のコートを引っ張った。
「ちょっ、東吾。一緒に行くってどういうつもり?」
「どうって? 沙奈の婚約者としてご近所に挨拶に行くだけだけど?」
「こ、婚約者って。いいですから、そんなの。私はちょっと恋人同士のフリをしてほしかっただけで……」
「だって、おじいちゃんはもう俺のこと婿さんだと思ってるでしょ。乗りかかった船だしさ、最後まで付き合うよ。それに俺、おじいちゃんのこと好きになったし。言ったよね、沙奈の大切なものは、俺も大切にしたいって」
主任の長い腕が、私の首に回る。私の顔を間近で見つめる彼が、見たこともないくらい甘く微笑んだ。