溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「さあ、沙奈。契約の改正をしよう。今から俺は、君の婚約者だ」
ゆっくりと近づいてくる、主任の整った顔。軽く鼻を触れ合わせてから、彼の唇が私の唇に触れた。
そのキスは、なぜだかとても甘い。生まれ育った場所で、彼とキスをしていることがなんだかとても不思議だ。
どこか現実離れしていて、夢の中の出来事のように感じる。それを見透かしているように、もう一度主任の唇が私の唇に触れる。
そのキスが、これは夢じゃない、現実なんだと言っているような気がした。
そう、これは現実だ。主任は私と目が合うと、満足したようにふっと微笑んだ。
「これは、契約のキス。よろしくね、俺の婚約者さん」
私を見下ろす切れ長の瞳が、キラリと光った。
ああ、私……やっぱり間違った。嘘をついたことではない。この人に、恋人役を頼んだことが間違いだった。
心の奥で、鍵が次々と弾け飛んでいく。もうごまかしようがないほどに、私は桐島主任に惹かれている。
神様、これは罰なのでしょうか。嘘つきで、罪深い私への……罰なのでしょうか。
嘘で塗り固められたこの関係に、明るい未来などあるはずもないのにーー。