溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
その舌に必死で応えると、キスをしながら優しく頭を撫でてくれるの。彼のその仕草が、褒められているようでたまらなく好きだ。
「……沙奈、辛い?」

私の上に覆いかぶさっている主任が、唇を離してからそう呟いた。私の頰を撫でて、なにかを探るように瞳の奥を覗き込んでくる。

「どうして?」

「最近、よく辛そうな顔をしてるから。嘘をついてるのが、辛くなった?」

ああ、バレてる。怖いな、この人は。いったい、どこまでわかっているのだろう。

辛いのは、嘘をついていることだけじゃない。
日に日に甘く、濃厚になっていくキスも、優しく触れる手にも、胸が締めつけられるように痛む。

この人に惹かれる気持ちをごまかさなければならないことも、辛い。

これ以上深入りしてはいけないと思うほどに、深みにはまっているような気がする。

「……俺は、本当にしても構わないよ」

「え?」

「辛いなら、この関係を本物にすればいい。俺と結婚しよう、沙奈」

その言葉の意味を理解するまで、少し時間がかかった。

え、なんだろ……。この人今、なんて言った? 結婚て、言いました?

パチパチと瞬きをして主任の顔を見返すが、私を見下ろす彼はいたって真面目な顔をしている。

「今、なんて言いました?」

「俺と結婚しようって言った。近いうちに、籍入れに行く?」

空耳でも聞き間違いでもない。け、結婚て、籍を入れるって……なぜそうなった。

あ、ありえないでしょ。


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