溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「は!? な、なに言ってるんですか。桐島主任は私のような庶民ではなく、それなりのご家庭のお嬢様と結婚しないとまずいでしょ」
「ここで、主任と呼ぶか。前にも言ったことあるよね。俺、結婚相手は自分で見つけたいんだ。それにわざわざ愛のない政略結婚なんてしなくても、会社は自分の力でやっていけるよ。それとも沙奈は、俺がそんなものに頼らないとやっていけない男だとでも思ってるの?」
「いえ、そんな。めっそうもない」
私の答えに満足したのか、主任がにっこりと微笑む。その笑顔を見上げて、私は眉をひそめた。
なんで、急にそんなことを……。
あまりにも唐突すぎて、とてもじゃないけど、本気で言っているとは思えない。いったいなにを考えているのか……うーん、解せぬ。
「……だからって、どうして私なんですか? 結婚なんて、そんなに簡単に決められるはずないです。主任、私のことからかってます?」
「まさか。冗談でこんなこと言わないよ。簡単に決めたわけでもない。どうして俺が結婚の話をしたか、その理由が知りたい?」
主任の指が、私の頰を撫でる。コクリとうなずいた私に、ふっと笑った主任が顔を近づけてくる。
「沙奈が結婚したくない理由を教えてくれたら、教えてあげる」
意地悪な笑みを浮かべた彼の言葉に、ビクリと身体が震える。じっと見つめられて、思わず顔を背けた。
沈黙が続く。静寂に包まれた空間に、息が詰まる。エアコンの音だけが、やけに大きく聞こえる。
しばらく私の言葉を待つように黙っていた彼が、ため息をついて首筋にキスをした。