溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
どうしても我慢ができなくて、私は主任の背中にぴったりとくっついた。一瞬ピクリと身体が動いたけれど、彼はなにも言わない。
やっぱり怒っているのだなと思いながらも、こうすることは許されたのだと解釈して目をつむる。
主任のぬくもりは、なぜだかとても安心する。あっという間に睡魔がやってきて、瞼が重くなる。
眠りに落ちそうになった瞬間、ため息をついた主任が向きを変えて私のことを抱きしめた。
「俺、怒ってるんだけど。こんなかわいいことしてもごまかされないよ。まあ、沙奈がそのつもりなら、俺にも考えがある。俺は俺のやり方で、攻めさせてもらうよ」
なにか言っているなとは思っても、全身が主任のぬくもりに包まれて、意識が急激に落ちていく。
「絶対に逃がさないよ。俺にチャンスを与えたのは、君なんだから。沙奈のペースに合わせるのは、もうやめた」
なにを、言っているのだろう。ダメだ、もう……なにもわからない。額に柔らかいなにかが触れる。
「覚悟してね、沙奈」
主任の指が、髪をなでる。私を包むあたたかい腕の中で、意識を手放した。