溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
「いやぁ、なんだこりゃ。ずいぶん立派な部屋だなぁ」
ウロウロと部屋の中を歩き回るじいちゃんの後ろ姿を見ながら、私も目を丸くする。
旅館に入ったときから思っていたけど、ここ、絶対高い。
だって、だって。ものすごく部屋が広い。それに、何部屋あるの?
テーブルと座椅子の置いてあるリビングに、ベッドルームに和室。その向こうには、オーシャンビュー。
窓際にはその景色を堪能できるようにだろう、和風のソファが置いてある。さらに……。
「東吾くん、東吾くん! ろろ、ろて、露天風呂が!」
そう、露天風呂までついている。じいちゃんはもう大興奮だ。
頭まで赤くしながら露天風呂を覗いているじいちゃんの腕を、主任が掴む。
「おじいちゃん、足元が滑りますから。今日はたくさん歩いて疲れたでしょう。早速入りますか? ここの温泉は疲労回復にも効果的ですし、腰痛にもいいんですよ」
「入る、入る。最近、腰が痛いからなぁ」
「じゃあ、僕も一緒に入りますよ。その前に、少し水分を摂りましょう。のぼせたら大変ですから」
じいちゃんを窓辺のソファに座らせて、ミネラルウォーターが入ったコップを差し出す。
……すごい、私の出る幕なし。前から思ってはいたけれど、この人、お年寄りの扱いに慣れている。