溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
驚きのあまり身動きひとつせず、黙ったままの私を見かねたのか、じいちゃんが私の背中を叩く。


「ほれ、沙奈。東吾くんにちゃんと答えてやれ」

「あ……、う、うん」

私が断るわけがないと思っているのだろう。じいちゃんは、ニコニコと私と主任を見つめている。

あたり前だ。そういうふうに、振る舞ってきた。今さらじいちゃんの前で、それをぶち壊すことなんてできるはずがない。

「……はい。こちらこそ、よろしく……お願い、します」

震える声で、そう答える。これ以外の選択肢が、私にはない。

ふっと口の端をあげて、意地悪めいた笑みを浮かべた主任が私の左手をとった。

「うれしいよ、沙奈。どうしてもおじいちゃんの前でプロポーズしたかったんだ」

左手の薬指に、ダイヤモンドのついた指輪がはめられる。サイズもピッタリなその指輪が、なんだかとても重く感じた。

「えがったなぁ、沙奈。本当にえがった。東吾くんになら、沙奈を安心して任せられる。もう、なんの心残りもないなぁ」

じいちゃんの言葉に、胸がズキリと痛んだ。そうだ、この契約はじいちゃんを安心させるためのもの。

だから、これでいいはず。この言葉をじいちゃんから引き出した主任は、最高のパートナーだ。

なのにどうして、こんなに怖いのだろう。

「いやいや、弱気にならないでください。沙奈さんのウェディングドレス姿を見てもらわないと。それに、ひ孫の顔も」

その発言に、私はぎょっとして主任の顔を見た。ひ、ひ孫って、本当になに考えてるの、この人。

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