溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
彼の本気、彼女の罪
薄暗い部屋。唯一点けられたテーブルランプが、私の上で微笑んでいる主任の顔を照らす。
その光景があまりにも恐ろしくて、恐怖に耐えきれず顔を背けると、顎を掴まれて強引に顔を引き戻される。
「顔、背けないで。わかってるよね、沙奈。俺、怒ってるんだけど。この期に及んで逃げようとするなんて、本当にこったんないのかな?」
覚えたばかりの茨城弁で、笑顔を貼りつけたままなじるのはやめてほしい。こったんないは、茨城弁で頭が足りない……要するにバカ。
いや、悪いのは私だとは思いますよ。思うけど、逃げたい。
どうにかして逃げ出したいと抵抗してみても、余計に強く腕をベッドに押しつけられる。
飲み慣れないお酒を飲んだのはまずかった。身体にうまく力が入らない。もうこのまま酔ったふりして寝ちゃおうかな。
「酔って眠るほどの量は飲ませてないから、寝たふりはむだだよ。別にしたいならしてもいいけど。身の安全は保証しないな」
その発言に、恐ろしさを感じて肌が粟立つ。まさか、そこも計算済み?
私を組み敷いている主任を見上げると、彼は楽しげに目を細めた。その視線にゾクリとして、せめてもの抵抗で目だけ逸らしてみる。
「残念だったね、逃げられなくて。ま、そんなこと許すつもりはなかったけど」
クスクスと笑い声を漏らす彼の吐息が、肌をなでる。