溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
そうして私は、ベッドルームに引きずり込まれた。ご丁寧に、部屋に鍵までかけたことに彼の本気を感じる。
邪魔されたくないのか、逃がさないという意思表示なのか。じいちゃんが邪魔しにくるわけはないから、きっと後者だろう。
そしてベッドに押し倒されて、現在に至ると。
これはもう観念しなければならないとは思うのだけれど、いまだに逃げ道を探している自分を我ながら往生際が悪いと思う。
「さあ、話して沙奈。君が頑なに俺を拒むのはなぜ?」
「しゅ、主任こそ。どういうつもりですか? こんな、指輪まで用意するなんて」
「また、そう呼ぶんだ。その都合が悪くなると主任て呼ぶのやめてくれないかな。どういうもなにも、モノがあったほうが本気で沙奈と結婚したいっていう俺の気持ちが伝わるかと思って。基本、嘘は嫌いなんだよね」
「……は?」
「おじいちゃんに話したとおり、俺は前から沙奈に好意を持っていた」
「う、嘘!」
信じられない気持ちで主任の顔を見上げると、彼はぐっと私に顔を近づけた。
「さあ、どうだろう。沙奈は俺のことを信用してないみたいだから。俺がなにを言っても、きっと嘘だと思うんだろうね」
怒っている、と同時に傷ついている。そんな顔で私を見つめる彼に、ズキズキと胸が痛む。彼を傷つけているのは、間違いなく私だ。
「沙奈、本当にわからない? 俺が、どうしてプロポーズしたのか。答えなんて、ひとつしかないよね? 見ないふりをするのは、卑怯だ。知らないのと、知ろうとしないのじゃ意味が違う」
主任の言うことは、なにも間違っていない。正論だ。
でも、怖い。彼に軽蔑されることが、嫌われることが怖い。