溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
視線を揺らしたまま、なにも言わない私に焦れたのか、主任はいきなり私の浴衣の帯に手を伸ばした。
「や、え、急に、なに?」
「沙奈がいつまでも黙ったままだから、もう既成事実作って責任とってもらおうかなって」
あまりのとんでもない発言に、目をこれでもかというくらい見開く。なんか、すごいこと言われたような……。
「はあ!? いやいや、なにそれ。いろいろ間違ってる。だいたい責任て、普通逆だから!」
「ああ、そうか。なら、喜んで責任とるよ」
「いや、そうじゃな……。やっ、こら! 帯解いちゃダメ!」
やばい。この人、本気だ。口元だけ笑ってるのも怖いし、必死に抵抗してるのに手を止めてくれない。
「なら、話して。このまま大人しく俺のものになるか、素直に話すかの二択だよ」
太股をなでられて、身体が跳ねた。浴衣がはだけて、主任の目に肌が晒される。
羞恥と情けなさから、涙が出そうになるのをぐっと唇を噛みしめて耐えた。ここで泣くのは、卑怯だ。
だけど、ダメだった。ポロっとこぼれた私の涙に気づいた主任の唇が、目尻に触れる。
「……そんなに信用できないか。知りたいと思うのは、俺のわがままだもんな。ごめんな、沙奈。泣かせるつもりじゃなかったんだ」
「ちがっ……信用してないわけじゃなくて、こ、怖い」
主任に抱きついて、大きく深呼吸を繰り返す。覚悟を、決めなければ。
「怖い? なにが、怖いの?」
ずっと胸に抱えていたものを口にしてしまったら、もうこうして抱きしめてもらえないかもしれない。笑いかけてもらえないかもしれない。