カミヒトエ
『な、なんてなっ☆』
パッと…いきなり私を放す。
『え…?』
いつの間にか諭は、笑顔に戻っていた。
『わりぃ!俺だって感傷的になるんだって♪よーし、学校行くぞー!』
くるっと私に背を向け、伸びをして拳を空へ突き上げる。
『ちょっと!』
この展開についていけない私を置いて、階段をリズム良く下りる諭を呼び止める。
――ピタリ…
足を止め、まだ階段の上にいる私に笑顔で手を差し出し…言った。
『遅刻するよ。行こう?』
――ニコ…
その笑顔は哀しげで、
不安げで、
泣きそうで、
強がりに見えて、
でも聞いちゃいけないような気がして。
私は差し出された手を強く握った。
『…馬鹿力だなぁ。』
『…うっさい。』
――カシャン……
再び自転車へ乗った私達。
『あ……。』
顔を上げた私の視界に入ったモノ…それは、
『ん?どした?』
『…何でもない。』
身長程ある立派な石に彫られた、寺の名前。
そうだ、此処の名前は――…
『――威呂破寺(イロハデラ)…』