溺愛執事に花嫁教育をされてしまいそうです
「……驚きましたか?」
 ありすは思わず大きく頷いた。

出会ったばかりの人と、初めてデートして、
ようやく落ち着いて会話が出来るという状況で、
いきなり『結婚』などという言葉を告げるのだ。

「私はもう良い年齢ですし、
それなりに人に注目される立場になっています。
もし誰か女性と、これからお付き合いするならば、
将来を考えずにお付き合いはできない、と
そう思っています」

 それはそうだろう。
マスコミが注目している二世議員。
それこそ将来の総理候補と言われているような人だ。
いい加減な人といい加減な付き合いは出来ない、と
いうことだとありすも納得して頷く。

「お話をいただいて
ありすさんに初めてお会いした時、
とても大事に育てられた優しいお嬢さんだとそう思いました。
人に愛されている人は、
人を愛すことも自然と覚えている。
愛し愛されて、ともに幸せな家庭を築ける人だと、
そう思いました。……それに」

 彼は手を膝に置き、背筋を伸ばして
まっすぐありすの事を見つめる。
その視線の毅然とした様子に、
ありすはドキンと心臓が高鳴る。

「……貴女には何故かお会いした時から、
懐かしい気持ちが湧いてきて仕方ないのです。
ずっと大事にしていた宝物に再び出会ったみたいな感覚……」
 ありすは藤咲の言葉に、
胸がぎゅっと掴まれたような気がした。
とくんと心臓が鼓動をいつもよりはっきりと刻む。

「こんな事言うと、おかしな人間みたいに見えますね」

 少し整った顔立ちを少し歪めて、照れたように笑う姿に、
ありすはドキドキと甘く切ない鼓動を感じている。
熱っぽい顔を左右に振って彼の言葉を否定した。

「そんなことっ……ないと思います」
「でも貴女には本当の私を
わかっていていただきたいですから……」

 ありすの手をそっと握りしめて、彼は柔らかく瞳を細めた。

「でもそんな乙女めいた予感だけで、
こんな話をしているわけではないんです。
こう見えても、小さい頃から親にも
連れまわされて色々な人にお会いしています。
職業柄この年齢の割には人を見る目もあるつもりです。
ですから、ありすさんにも私とのお話を
前向きに考えていただけたら嬉しいと思っています」

(あ、ダメだ。なんかドキドキしてきちゃった……)
 ドキドキと恋は別物だと、そう橘さんは言ったけれど、
どうしてもこのドキドキが起きてしまうと
冷静に物事を考えられない。

ありすは頬に手を当てて熱っぽい肌を確認する。
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