溺愛執事に花嫁教育をされてしまいそうです
「お嬢様、お茶がはいりました。
こちらで焼き菓子も用意できております。
いかがでしょうか?」
そう言われて改めてありすは、
ティセットが用意されたソファーに移動する。

「ありがとうございます」
ゆっくりとティカップに手を伸ばすと、
「そういえば……先日のデートはいかがでしたか?」
ふわりと長い睫毛を揺らす、橘に見惚れそうになって、
ありすは一瞬何を聞かれたのかが分からなくなっている。

「……え?」
「いえ……」
一瞬、躊躇うような顔を見せ、それから橘は
改めて表情を変えて、柔和な笑顔を見せた。

「私、本日午後より少し私用で
出掛けさせてもらうことになっております。
お嬢様は午後からは大学に行かれるのでしたよね。
不在の間になるかとは思いますが、
よろしくお願いいたします」

「大丈夫です。
気を付けて行ってきてくださいね」
ありすの言葉に、まるで立場が逆ですね、
と橘は苦笑して、もう一杯お代りはいかがですか?
と尋ねたのだった。

しかし、ありすはいつものように、
藤咲とのデートについて、
橘が尋ねることがなかったことに、
その時点では気づいていなかったのだった。


***************


「……あれ、休講だ」
ゼミの授業があるだけの予定だったのに、
どうやらゼミの担当教授は体調を崩したらしい。

掲示板を見て、無駄足になった事実をしったありすは、
そのまま帰宅しようかと思う。
その時、持っていたスマホが震える。

「……あれ?」
それは華道の次期家元だという駿からのもので。

「はい、もしもし」
『あ、ありすちゃん? 突然でごめんだけど、
今日、時間空いてないかな?』
突然の言葉に、ありすは目を瞬かせた。
(……ちょうどタイミングバッチリと言えば……バッチリだけど)

駿の話によれば、今彼は、ありすの通う短大から
家に戻る途中にある有名ホテルの依頼で
花を活け終わったところだと言う。

『一度俺の活けた花を見に来てほしいって思ってさ。
そう思ったら、このホテル、ありすちゃんの学校の側だし、
もしかしたら、顔出してくれるかなって思って……』

そう言われて、ちょうど暇になったこともあって、
ありすはなんとなく、駿の活けた花を見てみたいと思う。

「そう……ですね。ちょうど授業が休講になったところなんです。
じゃあ、せっかくなのでお伺いしますね」
ありすの答えに、駿は嬉しそうな声を上げて、
じゃあ待っている、と返答をしてそのまま電話を切った。


****************
< 51 / 70 >

この作品をシェア

pagetop