溺愛執事に花嫁教育をされてしまいそうです
帰宅時に迎えに来てくれる運転手さんを断り、
ありすはそのまま、駿がいるというホテルに向かう。

(会うのは久しぶりだな……)
最初のデート以来、二週間ほど会うことがなかったため、
ありすは少しだけ緊張している。
エントランスを抜けて、
ホテルのロビーに入った瞬間、

「……綺麗。これって……」
目に飛び込んできた光景にありすは息を飲む。

ピンク、黄色、白、赤、紫、そして緑色。
巨大な皿の様な花器に、
大胆に活けられた春の花々が、
まるで春の息吹を伝えるように
色とりどりにその場を彩っていた。
流れるような空間を体現したようなその花たちは、
それは、無機質なホテルのロビーに、
一陣の春の風を吹きこませるようだった。

「ありすちゃん、こっち」
その瞬間、ホールの向こうから
青みがかったグレーの着物を身に着けた
駿がこちらに向かって
控えめに手を上げて声を掛けてくる。

「これ……駿さんが活けたんですか?」
ありすがそういうと、駿は綺麗なストレートの
前髪を揺らし、少し顔を傾けて微笑む。

「そう。気に入った?」
「はい……凄く綺麗ですし、なんだか
ウキウキするというか、春が来たんだなって
楽しくて幸せな気分になれそうなお花ですね……」
ありすの言葉に駿は照れくさそうに笑う。
そうすると、童顔な事が相まって、
自分といくつも変わらない年齢のように思える。

それにほんの少しだけ、
しゅんくんの照れくさそうな笑顔を思い出させる。
なんだかドキンとして、
照れ隠しをするように、ありすは
改めて目の前に立つ駿の様子を見上げた。

「今日は……着物なんですね」
ありすの言葉に駿はにっこりと笑顔を浮かべる。

「一応仕事だったからね。
でももう仕事は終わったから、
今から少し一緒に遊びに行かない?」

その言葉にとっさに返事に迷っていると、
駿はありすの手首をつかみ、
そのまま引っ張るようにして歩き始めた。
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