溺愛執事に花嫁教育をされてしまいそうです
「あれ 少し疲れてる?
だったら、少しお茶でも飲んでのんびりする?」

そのまま引っ張って歩いて行きそうだった駿が、
ふと足を止めて、ありすの顔を覗き込んだ。

大学の休講を確認して
そのまま移動してきていたありすは
ほんのりと汗をかいている。

「ふふ。このホテル、実はイギリス式の
アフタヌーンティが有名なんだよ。
せっかくだからお茶でもしようか。

……この間はオレのペースで
引っ張りまわしちゃったしね」

そしてありすたちはホテル内のカフェで、
席に着く。
しばらくすると、
ティースタンドに品よく綺麗に盛り付けられた
スイーツや軽食と一緒に、
紅茶がサーブされて、ありすは嬉しくなってしまう。

平日の午後のホテルはさほど混雑している様子もなく、
ポツリポツリと人が点在している感じだ。
アールヌーヴォー風の洒落たインテリアに
彩られたシックな店内の中で、

「ふふっ」
機嫌のよいありすは小さな笑みを浮かべた。
なぜなら、駿の衣装は
アールヌーヴォーとは一線を隔す和服で……。

(イギリス式のアフタヌーンティを頂くには
アンマッチなはずなのに、
不思議と違和感がないのね……)

意外と大正時代とかには、
こんな光景も見られたのかもしれない、
などと思っていると、
駿はありすの笑顔に合わせるように、
にっこりと笑顔を返した。

「そんなにスコーンが好き??」
その言葉に笑顔でうなづくと、
駿はにこにこと頬杖をついてありすを見上げた。

「女の子が甘いものを食べている姿って
本当にかわいいよね」

大好物のスコーンに
クロデットクリームをたっぷりつけて、
ついニコニコ笑っていたありすは
ふと、行儀悪かったかなと不安になり、
上目づかいで駿を見上げる。

「あの……食べすぎですか? 私」
その声に駿は片手にコーヒーカップを持ちながら、
優雅に笑って見せた。

「全然、小鳥が可愛い花をついばんでいるみたい。
いっぱい食べてね。
オレは女の子が嬉しそうな顔をして
いっぱい食べるのを見ているのが大好きなんだ。
花も、女の子も、かわいいし綺麗で、
オレをいつでも幸せにしてくれるからね」

甘いセリフを爽やかに告げる駿は、
そのまま花びらを愛でるかのように、
ありすの桜色の頬をするりと撫ぜる。
自分に近づく綺麗な指に、
うっかり見とれてしまい、次の瞬間、
ありすの頬はジワリと熱を持つ。

(また……ドキドキしちゃってる……)
最近気づけばこんな感じでしょっちゅう
ドキマギさせられてばかりだと、
そんなふわふわした自分のことがなんだか不安になる。

(たんにこういうのに弱いだけかな。私。
これでちゃんと自分で恋人を探せるんだろうか……)

少し不安になってきた気持ちもあって、
落ち着いたら外に遊びに行こうか、と
言われたタイミングで、駿に声を掛けて、
パウダールームに行かせてもらう事にした。
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