溺愛執事に花嫁教育をされてしまいそうです
水族館から少し山側に登ったところにある
少し離れたところから海を臨む公園は
どうやら穴場的な場所らしい。
あまり人の姿を見かけることはなかった。

人気のない公園と言うシチュエーションに少しだけ
どきどきしてしまうけれど……。

「ほら、ここは景色がいいだろう?」
今日は自分で車を運転して、
ここまで連れてきてくれた瀬名は機嫌よさそうに笑う。

「……本当にきれい……」
眼下には港町としても栄える街並みの街灯が
キラキラと輝いており、
その奥の真っ暗な海とのコントラストが見事だった。

ふたりで並んでベンチに座る。
あまり公園内は明るくはない。
そんな中で二人で座っていると、
ありすはなんだか不思議な感じがした。

「お嬢様、楽しんでいるか?」
笑って聞かれて、ありすはふと言葉につまる。
こんな風に楽しめるように気遣ってもらっているのに、
自分はつい気づけばほかのことばかり考えてしまう。
それがなんだか嘘をついているみたいで、申し訳なくて。

「あの……俊輔さんは……
いっぱい女の人とキスしたことありますよね?」
「……はあ?」
つい尋ねてしまった問いに、
素っ頓狂な声を上げて瀬名は目を瞬かせた。

「……なんでまた」
いかにも恋愛慣れしてそうな瀬名に、
ありすはいろいろ聞いてみたくなったのだ。

「だって……俊輔さんって、
女性に慣れてそうっていうか……。
あ、あの……もしかして好きじゃない女性と
キスなんてしたことありますか?」

最初はなんてからかおうかと瀬名は
思っていたのかもしれない。
けれど尋ねたありすの声はかすかに震えていて、
自分ながら、泣きそうな声に聞こえて、
慌てて口元を抑えた。

「……さあ、どうだったかな。
されたことなら、あったかもしれないな」
どこか柔らかい口調で答えられて、
ありすはぎゅっと唇を噛みしめた。

「なんで……好きじゃないのに、キスしたんですか?」

「……キスをする側は、大概は相手に
振り向いてもらいたいから……。
それを無下にできないから、かもしれないなあ」

「……振り向いてもらいたい?」
ありすの言葉に瀬名は肩を軽くすくめる。

「基本的に嫌いな相手に
自分からキスをするってことはないだろう。
……と俺なら思うが」
瀬名にじっと見つめられて、
ありすの胸は、どきんと鼓動を鳴らす。

「だったら……好きじゃない人とキスしても、
それはキスって思わないんですか?」
ついさらに尋ねてしまう。

「さあ……それはされた側がどう思うか、だな
……試してみるか?」
ふと次の瞬間、隣に座っていた人は
ありすの肩を抱き、もう一方の手で
ありすの頤を捕えていた。
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