溺愛執事に花嫁教育をされてしまいそうです
ドライヤーを慌てて止めた橘が、
そっとドレッサーにドライヤーを置くのを
咄嗟に手を掴んで止めてしまう。

「あの……この間の橘さんの言葉が気になって、
それでそのことを尋ねたら、
『自分で体験した方が分かるだろう』って
そう言われて……キスされたんですけど。

でも……違うんです」

そう声を上げたありすを見て、
橘は眉を顰め、
それから、小さく吐息をつくと首をかしげる。

「……違う?
違うとは……どういう意味ですか?」
ありすはギュッとお腹の前で、
自分の両手を握りしめた。

「……違うんです。
この間、橘さんにされたのと……」

そういった瞬間、ありすを見つめていた
橘はかすかに目の下を染め、視線をそらす。

「あれはっ……」
狼狽する橘の腕をぎゅうっとつかんだありすは、
反らした顔を覗き込んで尋ねた。

「……あれは、なんだったんですか?
私、それを確かめたいんです」

そう告げると、ありすはそっと目線の上にある
綺麗な稜線を描く顎から頬のラインを見つめ、
そっとそのあたりに手を添わせる。

瀬名はどうしていたっけ?
躊躇いながらも、自分の方に、橘の顔を向けると、
そっと瞳を閉じて唇を寄せる。
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