溺愛執事に花嫁教育をされてしまいそうです
「──っ」

触れ合った瞬間、
冷たく引き締まっているように思えた橘の唇は、
微かに力が抜けて、柔らかく優しく思えた。


(それに……思ったより、ずっと熱い……)

その感触を認識した瞬間、
かぁっと熱がこみあげてくる。

慌てて、唇を離すと、ぱっと目を開いた。
そこにはどこか切なげな顔をする橘の姿があって……。

きゅん、と胸が詰まるような気がする。
なんだかいけないことをしてしまったようで、
ありすは呼吸をすることも忘れ、
目の前の男性の端正な顔を頬を染めながら、
見上げることしかできない。

(どうしよう……)
しでかしてしまったことに、
胸が壊れそうなほどドキドキと鼓動を打っている。

思わずぎゅっと瞳を閉じてしまう。

「あっ……あのっ」
声を上げた瞬間、

ぐいと橘に手を引かれ、
そのままドレッサーの前から
ベッドのある部屋の奥に連れていかれてしまう。

「あの……橘さん?」
その行動が理解できないありすは、
橘を怒らせてしまったかもと、
慌てて謝ろうと
ベッドサイドに追い詰められながら、
橘の顔を見上げた。

「……お嬢様は……」
橘は先ほどまでの狼狽した様子を消して、
そのまま、大きく吐息をついた。

「え?」
次の瞬間、
ふわっとベッドに押し倒されてしまう。

「──少々悪戯がすぎます」
そう囁くと、ギシリとベッドの端に膝を載せ、
橘はありすの両手を抑え込んだ。

「……え?」
突如立場が逆転して、
ありすは目の前の状況が理解できていない。

「愛情があるかどうかも大事ですが、
それ以前に、女性からあんな行動を取れば、
相手に勘違いされます」
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