溺愛執事に花嫁教育をされてしまいそうです
「私、橘さんから教えて欲しいんです……」
その言葉に、橘は小さくため息をつく。
そしてそれからありすの顔を覗き込み、
橘を捉えていた手をはがすと、
そっと自らの手のひらに繋ぎ直し、
それからふわりと
ベッドの上にありすを引き上げ座らせる。

「橘さん?」
「……仕様のないお嬢様ですね。
だったら……教えて差し上げます。
ですが……それなりのリスクは覚悟くださいね」

「──え?」
驚いたありすの頬をそっと優しく撫でると、
橘は柔らかく、ありすの唇に自らのそれを寄せる。

ありすが触れた時よりもっと優しく、
一瞬触れて、ふっと柔らかく笑みを零す。

「……貴女は、覚えてないでしょうが……」
一言囁くと、その唇はありすに再び触れる。

ぎしりとベッドのきしむ音がする。
ぎゅっとありすは橘に腰を抱かれて、
引き寄せられて、
ドキドキする胸の鼓動がおさまりがつかなくなる。

さっき思った以上に、
その唇は甘くて柔らかい。

何度も角度を変えて触れられるたびに、
その唇は柔らかくなり熱を帯びる。

「……少し、力を抜いてください」
一瞬、唇を離し囁くと、
開いた瞳に見える橘の顔は、
今まで見た中で一番優しく見えた。

その瞬間、緊張でガチガチになっていた体は
ほんの少し緩み、ようやく呼吸が出来る。
その唇にちゅっと再び唇を落とされて、
くすりと笑う橘の気配を感じる。

「……可愛らしいですね」
その言葉は執事の彼が言う言葉より、
もっと艶めいていて、
ありすはゾクリと背筋を震わせる。

「──っ」
瞬間じわりと熱が全身にこみ上げてきて。
涙が潤んできてしまう。

「……いきなりこの上の段階は辛そうですね。
大人のキスの練習はこの次にしましょうか?」
ぎゅっと愛おし気に抱きしめられて、
ありすは言葉を失う。

「それでは私はお茶を淹れてまいりますね」
そう言って、ベッドから腰を上げた次の瞬間、

橘はいつもの橘に戻っていて……。
ありすは言葉を失ってしまう。

(さっきのキスは……橘さんが思う『キス』
だったのかな……)

ドキドキする鼓動が止まらない。
心地よくて、気持ちがふわふわしている。

今日した全部のキスの中で、
一番幸せなキスで。

(だったら……この間したキスと、
今したキスは何が違うんだろう……)

ありすの頭の中は疑問符だらけだ。
ふわふわした気持ちのまま呆然として、
ありすは橘に呼ばれるまで、
ベッドに座り込んだまま、
立ち上がる事すらできなくなっていたのだった。
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