I・N・G


大きく深呼吸。

そっとそっとドアを開けていく。

「バレバレだっつーの」

背中を向けていたその人がクルリとこちらを向いた。

薄い唇、口角を上げたニヒルな笑みを浮かべている。
だけどもちろん、メガネの奥の瞳はやさしい。

私の大好きなその人は私の大好きな瞳で私だけを見てくれている。


「卒業おめでと」
「ありがと」

その人は私の右の胸元についてあった花をチロチロと見ながらニヤニヤと笑ってる。

「なに?」
「いや、別に」
「ふ~ん」

この人はいつもこうやって含み笑いをする。
そのつどなにを考えてるのかきくけれど、そのたびにこうやってはぐらかされる。

そのたびに、相手は大人なんだ、私とは違うんだって悲しくなってきた。

だけど、それも今日まで。

私は今日無事に高校を卒業した。
もちろん、籍はもう少しあとまで残ってるらしいけれど、晴れて大人へと一歩、この人へと一歩近づくことができるんだって思うとうれしい。

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