王子様はパートタイム使い魔
リディはひとつ息をついて立ち上がり、黒猫に告げた。
「あなたのような特殊な黒猫との契約について魔女組合に問い合わせてみるわ」
「あぁ。早急に使い魔契約と呪いを解いてもらうよう働きかけてくれ」
「はいはい」
せっかく優秀そうな黒猫と契約できたと思ったけど、中身が偉そうな貴族青年では面倒すぎる。
リディは通信符に手紙をしたためて窓から外へ飛ばした。
皿に入れたミルクはイヤだというので、カップに移してテーブルの上に置く。黒猫はひらりとテーブルに飛び乗り、器用に両の前足で支えながらミルクを飲んでいる。普通の猫では目にすることがないと思われるその姿は愛らしく、リディは思わず目を細めた。
少しの間黒猫とのんびりティータイムを楽しむ。そこへ窓から鳥の形をした白い紙が飛び込んできた。魔女組合からの通信符だ。
リディは紙を広げて手紙を読み、眉をひそめながら思わず不満の声をもらした。
「えぇー?」
困ったような顔で見つめるリディを、黒猫は不思議そうに見上げる。その瞳には少しの期待と不安が混在していた。
「どうした?」
尋ねる黒猫に、リディは不満を露わにして面倒くさそうに言う。
「事情は把握しているから、しばらくはあなたを使い魔として使役してくれって王宮魔女のグレーテ様からのお達しだそうよ。もしかしてあなた、グレーテ様に呪いをかけられたの?」
「ちっ、あのばばぁ……」
ぼそりとつぶやいて舌打ちをする黒猫の首根っこをつかみ上げて、リディは目の前で睨んだ。
「こらっ! そんなこと言ってるから呪われるのよ」
王宮の専属魔女は、魔女としての技量も最高クラスだが、王宮に出入りを許され王族や貴族との接触もあるため、信用のある人格者が務める。便宜上爵位も与えられている。よほどのことでもない限り呪いをかけるなどありえない。
つまり黒猫青年は”よほどのこと”をやらかしたということだろう。