王子様はパートタイム使い魔


 黒猫はつり下げられたまま、それでも悪態をつく。

「ばばぁをばばぁと言って何が悪い」

 リディは黒猫に顔を近づけて、呆れたように目を細めた。

「あなた、顔はいいのにもてないでしょ」
「あいにくだが、うるさくて困るほどだ」

 おおかた貴族の肩書きがものを言っているのだろう。自分だったらこんな人の気持ちを考えない男は願い下げだ。
 リディは黒猫をテーブルに下ろし、腰を屈めて視線を合わせた。

「とにかく、グレーテ様からの通達だし、あなたはしばらく私の使い魔として働いてもらうから」
「いやだ」

 間髪入れずに拒否して、黒猫はプイッと横を向いた。それと同時に彼の額からハラリと黒い毛が舞ったが黒猫は気づいていない。リディはひとつため息をついて黒猫を静かに諭した。

「契約は有効なんだからあんまり逆らってると禿げるわよ。あなたも納得していたじゃない」
「元に戻れると思わなかったからだ。さっさともう一度キスしろ!」
 そう言って黒猫はリディに飛びかかってきた。

「やだぁ!」

 リディが叫びながら黒猫を躱したとき、今度は先ほどよりも多く黒猫の頭から毛が飛んだ。さすがに黒猫も気づいたようで、ひらりと床に着地して前足で頭を撫でる。

「なんか、毛が派手に抜けたような……」

 不思議そうに何度も頭を撫でる黒猫をリディは冷ややかに見下ろした。

「契約主である私にあまり逆らわないことね。逆らうと毛が抜けるのよ」
「別に毛が抜けるくらいなら……」

 強がる黒猫の前にリディはしゃがんで忠告する。今度は忘れずに膝を床に着けて。

「あんまり逆らい続けてると毛が抜け続けて蛙になっちゃうの。そうなったら元に戻らないわ。気をつけてね」

 少しの間目を見開いて硬直していた黒猫は、やがて毛を逆立てて怒鳴った。

「聞いてないぞ! パートナーだと言っていたではないか。逆らえないとか、それでは奴隷と一緒ではないか!」

 リディは微笑みながら黒猫の頭を撫でる。

「大丈夫よ。ちゃんと仕事を手伝ってくれたら、無茶な命令なんてしないから」


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