王子様はパートタイム使い魔
黒猫は幾分表情を和らげたものの、まだ不満そうにリディを睨んでいる。リディは黒猫を抱き上げてテーブルの上に乗せた。
「それにね、主人が横暴で無茶な命令をするようなら仲間に告げたらいいわ。魔女と同じように使い魔同士のコミュニティがあるみたいなの」
リディも先代使い魔のレオンに聞いた話だが、使い魔同士で情報交換をしているらしい。
住処と食事の心配がないだけで猫にとっては天国のような生活なのだが、それでも主人に不満を抱く使い魔はいる。仲間のそんな愚痴を聞いた使い魔は帰って主人に告げるので、あまりに酷いものは魔女組合に伝えられ組合から是正勧告が行くのだ。
魔女たちもそんな仕組みを知っているので、使い魔はかなり大切に扱っている。
話を聞いても黒猫の表情はまだ浮かない。
「オレには猫の仲間なんかいないぞ」
「組合に報告もあるし、今度城下に連れて行ってあげるわ。今のあなたなら猫と話せるはずよ」
「そうか……」
少し考え込んだあと、黒猫はなにか思いついたのか、打って変わって目を輝かせながら上機嫌に言う。
「よし。今度と言わずすぐにでも連れて行け」
何を企んでいるのかピンときたリディは、きっちりと釘を刺した。
「言っておくけど、城下で逃亡なんか謀ったら後悔するわよ。そんな最大級の裏切り行為、一発で蛙になっちゃうから」
「ちっ……」
図星だったようで、黒猫は忌々しそうに舌打ちする。本当はどの程度反発すれば蛙になるのかリディにもわかってはいない。けれどグレーテの意向とあらば、しばらくの間この面倒な黒猫と一緒に仕事をしなければならないのだ。反発ばかりされては仕事にならない。
貴族と思しき青年が庶民の下働きなどイヤなのはわかる。そんな乗り気でない者と仕事をするのは、リディにとっても気乗りはしないのでお互い様だと思う。
リディはひとつ息を吐き出して、未だに不服そうにそっぽを向いた黒猫を抱き上げた。