王子様はパートタイム使い魔
「今日のところは、町のみんなに挨拶をして道と顔を覚えてもらうわ」
一旦黒猫をテーブルの上に下ろして、リディは部屋の隅にある小物入れの中に入れておいた赤い小さなスカーフを黒猫の首に巻いた。黒猫は怪訝な表情でスカーフを引っ張る。
「なんだ、この不格好なスカーフは」
「不格好で悪かったわね。うちの子だという印よ。町の人たちには黒猫の区別がつかないから」
「ちっ、しかたない……」
舌打ちをして黒猫はスカーフから前足を離した。貴族の青年はツルツルとなめらかな絹のスカーフしか知らないのだろう。木綿のカサカサした肌触りが気に入らないのかもしれない。
黒猫の心情はともかく、リディは満足そうに黒猫を眺めた。
先代使い魔のレオンもそうだったが、やはり黒猫には赤がよく似合う。赤いスカーフを巻いてテーブルの上にちょこんと座っている黒猫を眺めていると、リディの頬は自然とにまにま緩んでいった。
怪しいものでも見るような目で見上げる黒猫を、リディは上機嫌で抱き上げた。
「さぁ、町に挨拶に行きましょう」
黒猫を抱いて、リディは町外れにある家を後にした。