王子様はパートタイム使い魔
それからリディは猫を抱えて薬棚の前に移動した。薬草や草花の図鑑を見せながら、お得意さまに運ぶ薬を教えたり、人には平気だが猫には毒になる草花を教えたりする。
猫にとっての毒草は、本物の猫なら本能で知っているらしい。リディは魔女学校で教わった数種類の花しか知らなかった。けれど、先代使い魔のレオンから他にもいくつか教わったのだ。ツヴァイは元々人間なので、その辺はあまり知らないだろう。
薬の説明を終えて再びテーブルに戻る。お茶を淹れて一緒に休憩。黒猫にも本人の希望通りカップに淹れて。両の前足でカップを押さえて器用にお茶を飲む黒猫を見ながら、リディは目を細めた。
猫は文字通り猫舌なので、かなりぬるめに淹れてある。もっとも猫に限らず動物はみんな熱すぎるものは苦手らしいが。
のんびりまったりお茶を飲んでいると、黒猫が話しかけてきた。
「他にも覚えることはあるのか?」
その声にふと気づいて窓の外を見る。かなり日が傾いて木漏れ日がオレンジ色に染まっていた。
リディは黒猫の頭を撫でながら微笑んだ。
「今日はもう終わりよ。明日からよろしくね」
「そうか。では少し眠るとしよう。異様なほど眠い。オレのベッドはどこだ」
今にも閉じそうな目を何度も瞬きしながら黒猫はキョロキョロと辺りを見回した。
猫はとにかくよく眠る。肉食動物の猫はいつ獲物を捕らえて食事にありつけるかわからない。だからヒマな時は体力を温存するために眠っているのだと先代猫のレオンから聞いた。人に飼われて食事の心配がなくなっても、その習性は残っているらしい。
リディは部屋の隅に置かれた蔓草で編んだ大きなかごを指さした。レオンが寝床にしていたかごだ。新しい使い魔猫のために中に敷いたクッションは新品に取り替えてある。