王子様はパートタイム使い魔
黒猫青年が森の町ゼーゲンヴァルトを出ると、石畳の街道の端に今まさにやってきたばかりの豪華な馬車が停まった。白に金の装飾を施した大きな馬車から、上品な黒い燕尾服を着た黒髪の青年が降りてきて黒猫青年に恭しく頭を下げる。
「お迎えにあがりました、ユーリウス殿下」
「ディルク。よくここがわかったな」
「グレーテ様から伺いました」
「……気に入らないな。あいつの手のひらの上で踊らされている気がしてならない」
舌打ちして顔を歪めるユーリウスを促して、ディルクは馬車の扉を開ける。
「お話は中で。もうすぐ日が暮れます」
「わかった」
二人を乗せた馬車は、王都ヒューゲルに向かって走り始めた。ユーリウスと向かい合わせに座ったディルクは、少し眉をひそめて、不満げに言う。
「心配しました。グレーテ様から社会勉強だと伺っていたのですが、何をなさってたんですか?」
従者のディルクは過度の心配性で、少しでも姿が見えないと城中を探し回る。まさか、グレーテから呪いをかけられて猫になっていたとは言えず、ユーリウスはいたずらっぽく笑ってごまかした。
「国民の暮らしぶりを見学してきた。仕事も教わった」
「仕事!? どんな仕事をなさったんですか? 危険なことは……」
ごまかしたつもりが心配性をあおってしまったようで、ユーリウスはあわてて付け加える。
「町の魔女の仕事だ。教わっただけで何もしてはいない」
「そうでしたか……」