王子様はパートタイム使い魔
4.人の気持ちを学びなさい。
リディにしがみつきながら、ツヴァイは悲壮な面持ちで訴える。
「リューディア! オレはひとりで眠っていただけだ。魔女を怒らせてはいない。どうして猫になっているんだ!」
「爪を立てないで。たぶん時間制限があるんでしょ。朝になったら一時的な呪いの解除は無効になるとか」
「なんだそれは!」
「ただの推測よ。呪いをかけたのは私じゃないんだから。とりあえず中に入って。外で名前を連呼されたんじゃたまらないわ」
家に入って扉を閉めると、リディはツヴァイをテーブルの上に下ろした。お茶を淹れるためにキッチンへ向かうリディの背中に向かって、ツヴァイが不思議そうに尋ねる。
「おまえはリューディアではないのか?」
「そうだけど、その名前で呼ばないで。”真名(まな)”って言って私自身を示す大切な名前だから他人に知られちゃいけないのよ。真名がわかれば魔女の力を封じたりできるんだから」
お茶を淹れて戻ってきたリディは、テーブルの上にふたつのカップを置いて席に着く。ツヴァイはカップの根元を両前足で押さえながら再び問いかけた。
「オレにはあっさり明かしたではないか」
「契約には必要なのよ」
「ということは、契約猫はみんな主の真名を知っているということか」
「でしょうね」
カップに口を付けて軽く答えるリディに、ツヴァイは耳を後ろに倒して目を細めながら言う。
「猫同士でうっかり教え合ったりしてないか?」
「それはないと思うわ」
「なんで言い切れる。猫に真名の重要性がわかっているとは思えないが」
「重要性はわかってなくても、我が身に危険が及ぶことは契約猫だけじゃなく、猫全般に知れ渡ってるらしいわよ」
ツヴァイは困惑した表情で首を傾げた。
「危険? 主から体罰を受けるのか?」
「違うわよ。レオンから聞いたの。契約の時に聞いた主の名前を主以外に漏らすと蛙になってしまうって伝説になってるんだって」
「なるほどな。裏切り行為になるからだな」