王子様はパートタイム使い魔
納得して何度もうなずくツヴァイの頭をリディは目を細めて撫でる。
「そういうことよ。蛙になりたくなかったら真名で呼ばないで。リディって呼んで」
「わかった」
ひときわ大きくうなずいて、ツヴァイは再びお茶を飲み始めた。普通の猫のように舌でピチャピチャ舐めるのではなく、人のようにカップに口を付けて静かに吸い込む。他人の品格をとやかく言うだけあって、猫になっても優雅で上品だとリディは感心した。
ふいにツヴァイが顔を上げて問いかけた。
「じゃあ、グレーテも通称なのか」
「あたりまえじゃない」
お茶を飲みながら淡々と答えるリディに、ツヴァイはお茶から前足を離して真剣な表情で詰め寄ってくる。
「なんとかして真名を知る方法はないか?」
またなにかどうしようもないことを企んでいるような気がして、リディは目を細めてツヴァイに顔を近づけた。
「知ってどうするのよ」
「あいつの魔力を封じれば呪いが解けるんじゃないか?」
名案を思いついたと言うように、ツヴァイは得意げに言い放つ。リディは呆れたようにひといきついて、イスの背にもたれた。
「それはどうかしらね。返って一生解けないんじゃない?」
「そうなのか!?」
目を見開いて動揺するツヴァイの額を、リディはテーブルにひじをついてちょんとつつく。
「だって術者にしか解けないんだもの。術者の魔力が必要だと思うわ」
「ちっ……忌々しい」
耳を後ろに倒して不愉快そうに顔を歪めるツヴァイの頭を撫でながらリディはなだめた。
「グレーテ様はあなたが働いてることをご存じなんだから、まじめに働いてればそのうち呪いを解いてくださるわよ」
そう言ってリディがあごの下を指先でこちょこちょすると、ツヴァイは目を細めて首を伸ばす。ゴロゴロとのどを鳴らしかけて、ハッとしたように頭を退いた。
「おい。オレの正体を知ってるなら、あまり猫扱いするな」
「だって、あなた猫だもの。私、猫大好きだから猫可愛がりするわよ」
それを聞いてツヴァイは、耳もひげもピンと立てて、目をクリクリさせながら嬉しそうに言う。