王子様はパートタイム使い魔


「そうか。オレが好きなのか。だったらおまえ、呪いが解けたあかつきにはオレの妻になれ」

 相変わらずの俺様発言に、リディは呆れたように目を細めてツヴァイの額をツンと突いた。

「人間のあなたのそういうところは嫌いよ。少しは人の気持ちを考えなさいって言ったでしょ」
「考えてるじゃないか。オレが好きなら結婚したいだろう」

 貴族とはこんなに話が通じないものなのかとあらためて驚愕する。
 言葉は通じているのに意味が通じていないことに虚しさを覚えて、リディは説明することを諦めた。

「あなたじゃなくて猫が好きなの!」

 きっぱりと言い切るリディを、ツヴァイは珍しいものでも見るように凝視してつぶやく。

「おまえは変わっている」
「あなたも十分変わってるわよ」

 言い返してリディは席を立った。
 朝ご飯も食べずに飛び出してきたというツヴァイに、先代黒猫のレオンが好きだった鶏肉団子と香草のスープをテーブルに出す。
 これはさすがにお茶のように上品に飲むことは無理なようで、普通の猫と同じように口を付けて食べていた。味が薄いと文句を言われるかと思ったが、何も言わずに夢中で食べている。猫になると味の好みも猫になるのかもしれないとリディは思った。
 ツヴァイの様子を見ながら、リディも同じスープに少し塩を振ってパンと一緒に朝食を摂る。食事を終えたツヴァイは黙って顔を洗い始めた。まるっきり普通の猫と同じ行動に、リディは思わず凝視する。視線に気付いたツヴァイが前足を耳に引っかけたまま不思議そうにこちらを向いた。

「なんだ?」
「……うん、猫なんだなぁって思って……」
「え……」

 言われて初めて気付いたのか、ツヴァイは慌てて前足を下ろす。

「ヤバイ。無意識に……。どういうことだ」

 深刻そうな様子を不思議に思いつつリディは軽く受け流した。

「別にいいんじゃない? 猫なんだから」
「よくないだろう! このまま猫になってしまったらどうする!」


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