王子様はパートタイム使い魔


 即座に言い返すツヴァイが何を心配しているのかわかり、リディは声を上げて笑った。

「そんなわけないじゃない。グレーテ様はいずれ呪いを解いてくださるはずよ。でなきゃ、今もあなたの様子を気にかけているはずないでしょ?」
「そうかもしれないが……」

 未だに深刻な表情をしているツヴァイに、リディは顔を近づけて意地悪く言う。

「それとも、一生許してもらえそうにないほど怒らせたの?」
「そんな覚えはない。確かに烈火のごとく怒ってはいたが、そもそもそこまで怒る理由がわからない」
「へぇ……」

 案の定という予想が的中し、リディは呆れたようにため息をついた。

「たぶん、理由がわかっていないことが問題だと思うわ」
「どういうことだ?」
「推測だけど、あなたが人の気持ちを考えないからじゃない?」

 図星だったのか、ツヴァイは気まずそうに顔を背け、ポツリとつぶやく。

「あいつの方こそ、オレの気持ちを考えていない」

 なにか売り言葉に買い言葉的な口論が原因ではないかとリディは推測する。いつになく気弱な様子に、それ以上追及するのはかわいそうになってリディは席を立った。

「後片付けが済んだら今日の仕事の段取りを説明するわ。あなたはそれまで顔洗ったりグルーミングしてて」
「しない!」

 力一杯否定していたのに、リディがキッチンから戻ってくると、ツヴァイは自分の寝床に丸くなって、伸ばした自分の後ろ足の太股あたりをペロペロと舐めていた。
 やはり無意識なんだろうか。指摘するとまた気にするだろうと、リディは素知らぬ顔で薬棚の前に行く。棚から薬を取り出しながら、背中を向けたままで声をかけた。

「ツヴァイ、配達の説明をするからこっちに来て」

 すぐにツヴァイはやってきて、ひらりと薬棚の前にある調合台の上に飛び乗った。

「まずは、これね」

 そう言ってリディはツヴァイの首に赤いスカーフを巻く。今日のスカーフには角に黄色い六芒星が刺繍されている。


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