王子様はパートタイム使い魔
ツヴァイはその角を前足で引っ張りながら尋ねた。
「おまえ、このスカーフいくつ持ってるんだ?」
「あと二枚あるわよ。猫は狭いとこ好きだから、レオンも時々なくしてきてたの。予備はあるけど今日は帰る前に外して帰ってね」
「わかった」
リディは布製の袋に通信符を十枚入れて、袋の口に通したひもを左右に引っ張り口を閉める。そのひもをツヴァイの首に回して結んだ。そして袋のすその両端についたひもをツヴァイのおなかに回して結ぶ。
「ひも、きつくない?」
「大丈夫だ」
ツヴァイはそう言ってひらりと床に飛び降りた。背中に背負った布袋はちゃんと固定されているようだ。
ふたりで戸口に向かいながらリディが尋ねた。
「じゃあ、配達お願い。アーレンスさんの家よ。覚えてる?」
「町長だったな。一番奥にある大きな家だろう?」
「そうよ。ちゃんと挨拶して代金を回収してね」
「挨拶が通じるのか?」
ツヴァイが意外そうに目を見張る。リディはクスリと笑って入り口の扉を開いた。
「私以外の人にはにゃあにゃあ言ってるようにしか聞こえないわ。それでも猫が目を見て鳴いたら挨拶してるって感じるのよ」
「魔女には猫の言葉がわかるのか?」
「私には契約猫の言葉しかわからないけど、わかる人もいるみたいよ」
「そうか。グレーテならわかりそうな気もするが、この姿で話すのは屈辱だな」
不愉快そうに吐き捨てて、ツヴァイは外に出た。そこで立ち止まってリディを振り返る。
「じゃあ、行ってくる」
そう言って駆けだした。その姿を見送りながら、リディは手を振る。
「いってらっしゃい。初仕事頑張ってね」
日が昇り霧が徐々に薄れていく。木々の隙間からのぞく朝日に目を細めて、リディは店の中に入った。