王子様はパートタイム使い魔
第二章 王家の事情
1.金と銀の王子
「兄上、どうかなさったのですか?」
夕食の席で、弟王子のローラントが問いかけた。ユーリウスはハッと我に返ってそちらに視線を向ける。ローラントは声をかけておきながら黙々と食事を続けていた。
この弟は頭脳明晰、沈着冷静で状況判断能力にも優れている超優秀王子だが、表情が乏しく、感情がわかりにくい。月を映した水面のような銀色のまっすぐな長い髪をうしろに束ねて、澄んだアイスブルーの瞳が冷たい印象に拍車をかけている。
日の光を集めたような金の髪に南国の海のようなターコイズブルーの瞳、感情が顔に出やすいユーリウスとはなにもかも真逆だ。今も一目でわかるほどに不愉快を露わにしていたのだろう。
ユーリウスは表情を緩めて軽く答える。
「いや、大したことではない」
「そうですか」
ローラントはあっさり納得してそれ以上追及することはなかった。
ユーリウスの不愉快の原因は、目下王宮魔女グレーテにほかならない。
使い魔の仕事を終えて帰る間際にグレーテの使い魔ベルタに会った。人の姿で見ていたときもふてぶてしいと思っていたが、猫になって言葉がわかると、さらにふてぶてしい。
ベルタが言ったグレーテの伝言も気になる。
”人の気持ちを学べ”とはどういう意味だろう。まるでユーリウスに人の気持ちがわかっていないようではないか。リディにも何度か言われたが、そうなんだろうか。
そのリディに帰り際、キスを拒否されたのも不愉快というか不満に思っていた。
(オレを好きだと言ったくせに……)
だか好きなのは猫のツヴァイでユーリウスではないとも言っていた。猫のツヴァイには、リディは自分から抱きしめたり頬ずりしたりためらうことなくキスをする。見つめる瞳も慈愛に満ちている。
だが、人の姿に戻ったユーリウスを見つめる目は明らかに違っている。最初は珍しいものを見るような目だった。そして今日は少し厳しかったような気がする。女性にあんな目で見られたのは初めてだ。
ツヴァイにキスをするときも目を閉じていなかった。もしかして警戒されているのだろうか。中身は同じなのに、猫の時と扱いが違いすぎる。
自分がリディに嫌われているかもしれないと思うと、ユーリウスは無性に不安になった。
「やはり何か心配事でもあるんですか? 兄上」