王子様はパートタイム使い魔


 再びローラントが声をかけてきた。我ながら顔に出過ぎだと呆れる。ユーリウスは苦笑しながら尋ねた。

「オレはそんなにわかりやすいか?」
「そうですね。口も軽いように思います。次期国王としてはネックになるかもしれません」

 あっさり肯定されて、ユーリウスは益々苦笑する。けれどユーリウスは、ローラントの自分に対する歯に衣着せぬ物言いが好きだ。わかりやすくていい。
 ユーリウスは常々思っていることを口にした。

「オレよりおまえの方が国王になった方がいいんじゃないか?」

 ローラントは非の打ち所がないほど優秀だし、すでに婚約者もいる。
 生まれたのはユーリウスの方が先だが、母カタリーナは伯爵家の娘で、城で行儀見習いとして働いていたところを王に見初められて王妃となった。そしてユーリウスを生んで間もなく他界している。その後コルネリウス公爵家から輿入れした現王妃アデーラがローラントの母だ。

 血筋からしてもローラントの方がふさわしい。野心家であるローラントの祖父コルネリウス公爵は常々そう言っている。正論だとユーリウスも思っていた。おまけに公爵は自分と懇意にしている子爵家からちゃっかりとローラントの婚約者をあてがった。着々と王位継承の準備を整えている。
 けれど王も王妃も王宮魔女のグレーテまで、次期国王にはユーリウスをと推していた。そしてそれはローラントも同じらしい。表情を変えることなくユーリウスの言葉を冷ややかに一蹴する。

「私では無理です。私には兄上のような人心を引きつける資質がありません。民の心が離れていては国を維持することは難しいでしょう」
「グレーテには人の気持ちを学べって言われたけどな」

 ユーリウスがため息混じりに言うと、ローラントは珍しくクスリと笑った。

「猫になって使い魔をしているそうですね」
「知っているのか!?」
「グレーテから聞きました。私以外知りませんのでご安心ください」

 それを聞いてホッとしたものの、そうなった経緯まで知っているのだろうか。うっかり逆鱗に触れてしまい、呪いをかけられたことを知られているとしたらばつが悪い。ユーリウスはおずおずと問いかけた。

「どうしてだか聞いているか?」
「民の生活を知り、本音を聞くためだと聞いております。人が相手だと人は本音を語らないから猫の姿で仕事をしたいと兄上から申し出たんですよね?」


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