王子様はパートタイム使い魔


 店の看板を外に出し、日課の朝露集めをする。今日は店先に植えたハーブの芽を摘んでいると、道の向こうから昨日と同じように黒猫が駆けてきた。

「リディーッ! おはよーっ!」

 ツヴァイは昨日と同じように勢いよくリディに飛びつく。リディは黒猫を受け止めて頭を撫でた。

「おはよう。ごはんまだでしょ? 一緒に食べましょう」
「あぁ。あの鶏団子スープはうまい」
「そう。よかった」

 ツヴァイを地面に下ろして、リディはハーブと朝露の瓶が入ったかごを持って家に入った。



 食事を終えて自分の寝床でグルーミングをしているツヴァイの後ろから、リディは彼の首に赤いスカーフを巻く。毎朝一番に配達する町長宅の通信符を入れた袋を背負わせようとしたとき、細く開いた窓の隙間から通信符が舞い込んできた。
 気付いて立ち上がったリディの胸元で通信符が止まる。それを手に取り目を通した。

「あら、ヴィルターさん、今日は病院だったのね」

 森の奥に住むヴィルターは足が悪く、歩行が困難なので毎日リディが薬を届けている。月に一度孫娘が馬車で迎えに来て城下の病院に通っていた。今日はその日のようだ。いつもの薬は孫が迎えに来る前に届けなければならない。

「ツヴァイ、今日は先にヴィルターさんのところに行って」
「わかった」

 急いで薬を袋に詰めてツヴァイに背負わせる。ツヴァイはリディの開いた扉から勢いよく駆けだして行った。その姿を見送りながら、リディは声をかける。

「なるべく早く帰ってきてね。後回しになったアーレンスさんちは早く届けて欲しいから」
「わかったーっ」

 走りながら答えて、ツヴァイの姿は道の先に見えなくなった。


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